成城の閑静な住宅街にある「成城こばやし動物病院」。飼い主と動物の幸せを第一に考えた、地域に密着した「ホームドクター」として愛されているのが、院長の小林元郎先生です。今回は業務執行理事を務める(公社)東京都獣医師会で緊急災害時の動物救護担当もされている小林先生に、ペットと共に被災した時に備えて私たちができることや、海外と日本のペット事情の違いなどについて、幅広く伺いました。


LEONIMAL(以下 _LE):そもそも、小林先生は何故獣医になられたのですか?

小林:受験に失敗して・・・(笑)家が開業医だったので医学部を目指していたのですが、二浪までして受かったのが獣医学部だけだった(笑)。ザリガニ、クワガタ、カブトムシなどの生き物は子供のころから大好きだったのですが実は大学卒業するまで犬も猫も飼った経験はありません(笑)。大学でも動物にはほぼ関わりを持たない日々、細菌と細胞を相手に免疫学の研究に没頭していました。でもやればやるほど自分にその適性のない事が判明し早々に方向転換、6年生の冬に小動物の臨床の道に進むことを決心しました。

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LE:その時は犬や猫についての知識はあまりなかったわけですよね?

小林:はい。でも臨床って、人と話をしコミュニケーションを取ることが大事な要素じゃないですか。それについては自信がありました。でも当初犬や猫の種類すらわからず、白い犬は全部マルチーズに見えてしまうようなひどい状態でしたね(笑)。この仕事の先に何があるかもわからないまま卒業後4年が経ってしまいました。結婚して、ゴールデンレトリーバーを飼い始め、交配して出産を経験したりそれなりの努力はしましたけど。

LE:モチベーションがあまり上がらなかったのでしょうか。

小林:ええ。仕事の意味というか社会的使命がわからず、このまま漫然と仕事を続けるのか……とも思っていて。そこで、当時周囲の皆がアメリカの動物医療は凄い!と言っていたので、そんなに凄いなら行ってみよう!と思い、1年間ニューヨークのアニマルメディカルセンターと言う動物の総合病院に研修に行きました。私はずっと動物を治すことが仕事だと思っていたけれど、実はそれだけではなく、動物を治すことで飼っている家族、つまり人が幸せになれる、ということを目の当たりにしたのです。そのことに気づいた時は本当に嬉しかった。大学入学以来まじめに勉強したことは一度も無かったのですがそこからは死ぬ気で勉強しました。遅すぎますよね(笑)

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LE:アメリカで他に学んだことや気付いたことはありましたか?

小林:アメリカでは日本との動物に対する文化の違いをつくづく実感させられました。日本ではペットというと“愛玩動物”というか、その人の持ち物みたいな感じがあるじゃないですか。それが、向こうでは“社会の中に自然にいるパートナー”という感じ。民度の違いを思い知らされました。幼少のころからの教育プログラムの充実、コミュニティーレベルでの問題解決等見習うべき事は多々あります。それで、日本でそういう部分に寄与する仕事ができれば、と考えるようになりました。

犬や猫を飼っている人ってすごく多いような気がしているけれど、実際には日本国民世帯の3割にも満たない。要するに、7割以上は動物にそれほど興味がない人、どうでもいいと思っている人なんです。それならば、社会でその人たちに受け入れてもらえるように、われわれは努力しなくてはいけない。公衆道徳的にどうなのよ?という行動をわれわれがとっていては駄目、社会に対する説明責任を負っていると言う自覚を持たなければいけない、それを当初から訴え続けています。

LE:なるほど。それって対動物というより、対人間のお仕事ですよね。

小林:まさにその通りです。うちの病院のコンセプトは「人も動物も好きな病院」。動物の医療の先に人の幸せがある、と考えています。私たちは動物と共にあるライフスタイルまで提案する病院になりたい。動物を飼う時の社会的身だしなみや教養なども含めて伝えていきたいと思っています。それから、医療というのは瞬間、瞬間じゃなくて、繋がっていることをみなさんに理解してもらいたい。本当は犬や猫を飼う前に来院してもらいたいんですよ。「飼いたいな」と思った時から来てほしい。そして日常のつまらないことでもなんでも話してほしいんです。そこに大きなヒントが隠れていると思うので。

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LE:先生はまさにカウンセラーですね!

小林:ナラティブ・ベイスト・メディスン(患者が語る物語、つまり病気になった理由や背景、病気に対する考え方などを把握して治療方法を考える医療のこと)の応用です。飼い主さんの家族構成や生い立ち、価値観などをインタビューして、じゃあこの子(犬や猫)はどうしたらいいのかを考える。毎日夫婦喧嘩しているような家で飼われている子が「ごはんを食べないんです」と言われても、そりゃ食べませんよ、という話。医学的な知識だけでは解決できないことってあるんです。僕の目指すのは「かかりつけ医」。そういう立ち位置に置いてくれれば実力を発揮します。

LE:そうなんですね。では、そんな先生はしつけについてはどのようなスタンスをとっていらっしゃいますか?

小林:しつけという言葉はあまり好きではありません。要は静かにしなければいけない時に静かにできるか、人混みの中でも普段通りの行動ができるか、周りに色々な誘惑があっても私の脇で静かにいていられるか、それさえできれば十分だと考えています。でもこれが一番難しい。実は私の飼っている2頭の犬も現在教室に通っているところですから(笑)


小林元郎先生 _PROFILE
成城こばやし動物病院 _院長。公益社団法人東京都獣医師会 業務執行理事、先生動物医療研究会 副会長、東京城南地域獣医療推進協会 _理事を兼任。“ペットと共に健康的でハッピーに”をテーマとしたF_M_番組「ペット・ワンダーランド」(FM世田谷 83.4MHz_)_も好評。

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